秋田県で冬の味覚の代表の1つに”ハタハタ”があります。
焼き物、煮付け、小さいものは唐揚げ、贈り物としても重宝されるハタハタ寿司など様々な食べ方ができますし、”しょっつる”の原料にもなるなど幅広く利用されています。


また、秋田県の県魚、冬のプライドフィッシュにも認定されていて、秋田県の食文化を語る上で欠かせないものとなっています。
ただ、2024年は水揚げ量が過去最低の17t(最盛期の0.08%!)に留まり、2025年に至っては資源量がほぼない見込みも出されていました。
実際、県水産振興センターは今年の初水揚げの参考値(見込みを出すためのサンプルが集まらなかったので”参考値”とするのも初めてだった)を12月3日としましたが、記事執筆時12月12日になってもまとまった量の水揚げは聞かれていません。
危機的な状況を迎える中、改めてハタハタについてまとめてみました。
ハタハタの概要
ハタハタは スズキ目ハタハタ科ハタハタ目ハタハタ種に属する、日本海沿岸の冬を象徴する魚です。
もしかすると”秋田特有”の魚と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、日本海沿岸の…という表現通り、北海道西部~鳥取県辺りまで広く、また朝鮮半島東岸でも水揚げがあります。
秋田では卵「ブリコ」、山陰では脂の乗った身、北海道では”いずし”等の保存食文化、韓国北朝鮮では“トムルク“という名前で煮付け・焼き物・地域ごとに異なる食文化を形成しています。
東北では冬の魚として親しまれていますが、山陰地方では春の魚として、特に兵庫県では春のプライドフィッシュとして登録されています。
また、産卵場ごとに回帰性が強く、各産卵場に対応した「系群」が存在し、大きく4つに分けられています。
概要を下記にまとめてみました。

| 系群名 | 分布域 | 特徴 | 主な産卵場・漁法 |
|---|---|---|---|
| 日本海北部系群 | 青森〜秋田〜新潟沿岸 | 秋田県沿岸の藻場が最大の産卵場。冬(12月)に接岸して産卵。卵「ブリコ」が特徴。 | 定置網・沿岸漁業中心。秋田の「ブリコ文化」に直結 |
| 日本海西部系群 | 石川〜福井〜山陰(鳥取・島根) | 深海で育ち、脂が乗った身が特徴。春漁(3〜5月)が中心。 | 沖合底びき網漁業が主体。卵より身を食文化で重視 |
| 北海道西部系群 | 石狩湾〜オホーツク海沿岸 | 沿岸浅場で産卵。資源管理・人工ふ化事業が盛ん。 | 刺し網・定置網。飯寿司など保存食文化に利用 |
| 朝鮮半島東岸系群 | 韓国東岸〜日本海西部 | 日本海西部系群と混在することがある。 | 韓国沿岸漁業で利用。日本海西部漁場に影響を与える可能性あり |
過去に秋田県でハタハタが不足した際には、北朝鮮産のハタハタが輸入された時期もありましたが、鉛の混入事例があり、その後は北朝鮮産の輸入は事実上なくなったそうです。
漁獲量の変化
1956年~2024年までのハタハタの漁獲量を現在の上位7県についてまとめてみました。(参考出典:家勉キッズ[https://ieben.net/]地域の入れ物[https://region-case.com]様より)

前半(1956年~1989年)では、秋田県は1958年くらいから浮き沈みはあるものの、多い時で20,000tと膨大な量のハタハタの水揚げがあり、全国におけるシェアの5割以上を占める時期もありました。
しかし、1975年を境に急激に漁獲量を落としていき、3年間の禁漁が始まる直前の1992年には40tまで落ち込むことになりました。
北海道や隣県の青森・山形でも最盛期より漁獲が落ちていく反面、山陰の主な産地である兵庫・鳥取については、2,000~3,500tくらいで安定的な水揚げが続いていたようです。

そして、禁漁明けの1995年からは、秋田県におけるハタハタの水揚げ量は徐々に増えていき、2004年には3,258tと全国トップの漁獲高に返り咲きました。
しかし、その後は再び単年での増減はあるものの、全体としては右肩下がりになり、とうとう今年は資源量がほとんどないのではないかと言うところまで落ち込んでしまいました。
ただ、今回は北海道、隣県、はたまた山陰地域までも直近の漁獲量が極端に落ち込んでいるというデータが見て取れます。
漁獲が落ち込んでいる理由
30年周期がある?
上記の2つのグラフを1つにつなぎ合わせてみました。

「30年~40年くらいの周期で漁獲量が大きく増減する」という話もニュースでされていましたが、私はこの説には懐疑的です。
確かに、過去に獲れなくなった時期から数えてみると数値的には合致するのですが、3年間の禁漁を経ても最盛期には遠く及ばないのがグラフから見て取れると思います。
個人的には、そもそもの資源の量が足りていないのではないかと考えています。
その他外的要因
とは言え、日本近海で獲れなくなってきたのはハタハタに限ったことはでありません。
今年は”奇跡”と銘打たれて豊漁が謳われたサンマですが、後半は小ぶりなものが目立ち、以前のような潤沢さには戻っていません。
また、サバ、イカ、いわし…についても、単発では獲れているニュースは目にしますが、中々価格を押し下げたり、加工用に原料が回るほどやはり十分ではない模様です。
その背景として…
- 海水温の上昇
- 稚魚の成育環境
- 捕食者の増減
と、様々な要因が複合的に絡まっていて、ハタハタの不漁も30年周期…だけで捉えるのは楽観的過ぎると言えそうです。
他にも、漁師さんの高齢化で獲る人数自体も減っている、後継者不足という日本全体で問題となっている要因もあるようです。
秋田の漁業の未来は?
青森県鰺ヶ沢町においては、今期のハタハタ禁漁が決定されました。
深刻なハタハタ不漁 鯵ヶ沢町漁協が初の“禁漁”を決定|青森放送NEWS NNN https://t.co/sncVm1tGug
— RABニュース (@tw_rab_news) December 3, 2025
という訳で、個人的にはハタハタは再び禁漁に入るべきでは・・・と考えていますが、前回の禁漁時と違うのは山陰地方、北海道に於いても漁獲高が極端に減っているので、他産地のもので凌ぐということが難しそうだということ。
更に、その間、漁師さんたちの収入をどうするかと言う問題もありますので、前回の禁漁時の対応がどのように行われたかは記憶がないのですが、現在の状況に合わせてアップデートして補償を行うしかないのかなと思います。
それでも消費者としては何か食べないといけないのですが、来年はノルウェーサバが漁獲枠大幅減で価格が1.5倍程度に高騰、他、カラフトシシャモは禁漁に入るのでこちらも価格高騰が予想されます。
そこで、最近秋田で注目されている食材が「アブラツノザメ」です。

近年漁獲高が増えてきており、網にかかるとそのサメ肌で他の魚や漁具を傷つけるということで厄介者扱いされていましたが、隣県青森ではポピュラーな食材。生鮮市場だと頭まで売られている(”すくめ”というメニューになるらしい)位、無駄なく食べています。
鮮度が落ちるとアンモニア臭が・・・と悪いイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、最近の冷凍技術の進化でそういった原料は滅多に当たらなくなってきたと思います。
ただ、美味しくとも中々馴染みのない食材には手が出にくいのも事実。
私も食べてみたところ、クセが全くない白身で、脂ノリが良いので煮ても焼いても固くならなず、スーパーお惣菜の材料としても相性が良さそうです。
2025年6月には秋田県庁の食堂で提供されたところ、かなり好評だったようです。その様子のお話はコチラからPodcast形式で聞くことができますので、併せてご覧ください。

それがスーパーなんかで当たり前に売れるようになるには少し時間が掛かりそうですし、長い目で育てていく食材なのだと思います。
また、サメは寿命が長い分成熟までの時間が掛かるので、本格的に食用とする場合は資源管理がより大事になってくる可能性があります。
今回のハタハタのケースの後を追わないよう、その点も留意しながら振興を図っていければと思います。

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